・放射能の暫定規制値は厳しくない

東京電力福島第一原子力発電所放射能漏れ事故の影響で、福島県を中心に食品衛生法の暫定規制値を上回る放射性物質が検出される農作物が相次ぎ、25日までに1都5県の野菜と加工前の牛乳で計20品目以上に上った。

 福島、茨城、栃木、群馬の4県の一部品目について政府が出荷制限を指示しているが、専門家は、食べてもただちに健康に影響はでない数値と指摘しており、産地からは「規制値が厳しすぎる」との声が上がっている。

 野菜類(根菜・芋類を除く)の暫定規制値は、放射性ヨウ素で1キロ・グラム当たり2000ベクレル、同セシウムで同500ベクレル。これを上回る検査結果が、出荷制限がかけられた4県の葉物野菜などで出ている。千葉県では、規制値を超える放射性ヨウ素3500ベクレルが多古町のホウレンソウから検出されたことが25日に判明したが、同県はホウレンソウの国内最大の産地で、出荷の制限や自粛になれば市場に与える影響は大きい。政府は今後、出荷制限の必要性などを慎重に判断することになる。

 厚生労働省は、出荷制限対象の4県に加え、宮城、山形、埼玉、千葉、新潟、長野の6県についても、放射性物質が付着しやすい葉物野菜や、加工前の牛乳などについて検査するよう要請している。ただ、検査対象の品目は自治体に任されており、地域によって検査態勢にもバラツキがある。

 食品衛生法は元々食品の放射能被害を想定していないため、政府は震災を受けて、急きょ原子力安全委員会の示した指標を同法の暫定規制値に採用している。この指標は国際放射線防護委員会(ICRP)の最も厳しい基準を基にしている。内閣府食品安全委員会でも「規制値が厳しすぎる」との声が出ており、同委員会で新しい規制値の策定に向けた検討を進めている。 =読売新聞 2011年3月26日=

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農産物の出荷が制限されたり、検査体制を強化している地域で規制値が厳しすぎるという声が上がっていることに不安を感じます。

国民の健康を第一に考えて定められた安全基準が、農業の保護を目的に引き下げられるというのでは、農産物に対する国民の信頼が大きく揺らぐことが考えられる。

現在の放射能規制値が厳しすぎるというのは本当なのだろうか。


調べてみたところ、過去には規制値がさらに厳しい時期があった。

ソビエト連邦チェルノブイリ原子力発電所事故に係る輸入食品中の放射能濃度の暫定限度は、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告、放射性降下物の分析結果等から、輸入食品中のセシウム134及びセシウム137の放射能濃度を加えた値で1kg当たり370ベクレルとしていた。

1986年11月に設定された基準に基づいて、暫定限度を超えた輸入食品はすべて送り返されるという厳しい処置がとられていた。


暫定限度の施行から約1年後(1987年11月)に、検討会は暫定限度を再評価している。

その主な理由は、
(1)公衆に対する線量限度原則として1mSv/年(1985年のICRPパリ声明)の国内法令への取り入れが予定されていた(1988年)こと
(2)1年以上の輸入食品の分析データから主な放射性核種の存在比が分かったこと
(3)対象食品はヨーロッパ地域原産のものと限定してよいこと
などである。

再評価の結果、現行の暫定限度を継続すれば、公衆の被ばく線量はICRP(1985年)勧告値を十分下回ることから、暫定限度は十分安全を見込んだ妥当なものであるとの結論に達したという。


今回の福島第一原発の事故を受けて暫定的に決められた基準値は500ベクレルだから、チェルノブイリの検証で妥当とされた数値から1.35倍の放射線濃度まで許容範囲が広げられている。


食品安全委員会が「規制値が厳しすぎる」というのは、リスクに対する危機意識が低いのではないだろうか。

食品衛生法放射能被害を想定していなかったというのは間違いではないが、ごまかしの要素が含まれている。

法に定めがなくても、わが国には食品中の放射性濃度の暫定限度は制定されていたのだ。


厚生省(現厚生労働省)内に設けられた「食品中の放射能に関する検討会」が暫定限度を設定してあったにもかかわらず、福島原発の事故を受けて急遽決められた『新暫定基準』は、原子力安全委員会が代わって定めている。

国民の健康を第一に考える厚生労働省の基準を無かったことにして、原子力発電を推進する原子力安全委員会が『緩めた基準』を暫定的に決めたのが真実のようです。

マスコミは知らずに見逃しているか、知っていて隠しているのか。


放射能汚染の政府の対応が信頼に値しないことを示す、重要な判断材料であると思います。