・松くい虫

このところ気が重くなるような記事ばかりでしたのでちょっと毛色を変えましょう。


日本全国を北上中の松くい虫前線が駒ヶ根市に停滞しています。
松くい虫の被害は甚大で、松林は原形をとどめていない地域がたくさんあるそうです。
駒ヶ根、特に東伊那はマツタケの産地として有名ですが、アカマツ林が無くなれば当然マツタケも取れなくなります。
これは大変と、松くい虫とされる「マツノザイセンチュウ」の駆除が盛んになっています。
マツノザイセンチュウは読んで字の如し「線虫」ですから、これ自体はほとんど身動きできません。
マツノマダラカミキリに寄生して運んでもらいます。
(以下略称で、センチュウとカミキリ)


センチュウに出会うまでのカミキリは虫収集家の間では希少種として珍重されていたほど数の少ない昆虫でした。
ところが、今から100年前の1905年に長崎県で北米からの輸入材に取り付いていたセンチュウと運命的な出会いをします。
センチュウは松を枯らし、カミキリは枯れた木を食料としますから相思相愛の仲です。
出会ってはならない二種が劇的な出会いをしたために、松は悲劇のどん底に突き落とされました。


それから100年、人間とセンチュウの戦いは繰り広げられていますが、これまではセンチュウの完勝です。
今は、寒さに弱い弱点が生かせる北限の地にたどり着いたことで侵略は足踏みをしています。
駒ヶ根がセンチュウの足踏みの地になっているのです。


ただし、センチュウのおかげで潤っている業種もあります。
他でもない「森林組合」です。
収入源となるべき森林が侵略されてどうして森林組合が得をするのか不思議ですが、松くい虫防除という仕事があるんです。
カミキリムシにダメージを加える目的で殺虫剤が散布されますが、この仕事があることで森林組合の経営が成り立っているといっても過言ではない。
センチュウを根絶やしにすると仕事がなくなるので、加減して防除に取り組んでいるとまで噂されるほど、森林組合にとって大事なお客さんです。


しかし、駒ヶ根以南の地域の松くい被害の現状を見れば、防除が不可能なことは歴然です。
進行を遅らせることは多少できたとしても、全く解決には至らないのです。
駒ヶ根市では松くい虫からアカマツ(一部クロマツ)を守るための防除事業を行っています。
でも、この事業は単独では決して実を結びません。
センチュウの被害を遅らせている間に、被害対象地区のアカマツを効果的に利用することが伴わなければ結果は無駄になります。
マツを守るために薬剤注入が必要だという市の資料が来ましたが、松くい虫対策の根幹となるアカマツ林をどうするのかは全く触れられていません。
この資料を見た市民のほとんどが薬剤注入で松が守れると錯覚するでしょう。


これは駒ヶ根だけに限った事ではありませんが、防除関連業者だけが儲かる構図は全国どこでも一緒です。
治る見込みの無い末期がんの患者に延命治療を施すようなものです。
それよりも生きている間に有意義な人生を送り、尊厳ある死を迎えることのほうが幸福な場合もあります。
難しい問題ですが、大事な論点が見過ごされています。