・福島原発の事故対応はお粗末な技術レベル

連日、世間を騒がしている福島原発のニュースの中で、ほとんど注目されていないが、重大な危険を示しているものがある。

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汚染水移送の処理施設水位、想定より早く上昇

 東京電力は23日、福島第一原子力発電所3号機のタービン建屋から高濃度汚染水を移送している集中廃棄物処理施設建屋の水位が、想定よりも早く上昇していると発表した。
 ポンプの移送能力を超える速さで水量が増えている計算になり、東電は原因を調べている。
 汚染水の移送は、毎時12立方メートルの水を送り出すことができるポンプを使って、今月17日に始まった。移送量は、23日朝までに計約1600立方メートルのはずだが、東電によると、既に約2600立方メートル分の水位に達した。ポンプの能力をほぼ倍の毎時20立方メートルにしないと計算が合わないという。
 東電は「移送量はポンプの設計上の能力だけでなく、配管の状態や移送先との高低差などで変わってくる」と説明。地下水が入り込むなど別ルートの水の流入については「移送前に処理施設の建屋内部の密閉工事をしているので、その可能性は低い」としている。

(2011年5月23日12時30分 読売新聞)

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どこが重大かというと、これだ ↓

ポンプの能力をほぼ倍の毎時20立方メートルにしないと計算が合わないという。「移送量はポンプの設計上の能力だけでなく、配管の状態や移送先との高低差などで変わってくる」と説明。

ここでいわれているところのポンプの設計上の能力とは、カタログ値の定格をさしているようです。
ポンプの設計には、流量と圧力損失(配管抵抗)を詳細に計算した本来の意味での設計が不可欠です。
流量は東電が設定しているのでそれが目標値となる。
問題なのは圧力損失だ。

圧力損失は、流量と配管の形状によって決まる。
流速の二乗に形状特有の係数を掛け合わせて計算するが、配管経路には曲がりや分岐、バルブなどのさまざまな形状があるので計算には一定の能力が求められる。
私がプラント設計に従事していた当時は手計算だったので、一つの経路に数ヶ月を要する場合もあった。

あまりにも時間がかかるので、自前のミニコンピューターでソフトを開発し、後任にゆだねて全社に普及させた。
その後も改良が加えられて今ではすべてコンピューターで計算していることだと思う。
しかし、福島原発の移送管路は一般的な配管形状とは異なるので、定型的な配管抵抗計算ソフトになじまないかもしれない。
こういうときには熟練の設計者が、経験に基づいて抵抗係数に補正を加える必要がある。

計算の精度は設計者の熟練度に応じて決まる。
今回の福島の移送プラントでは、設計流量に対して実際の流量が二倍程度まで増加してしまっている。
ここが大問題なのだ。

福島原発の事故対策に当たっているプラント担当者の熟練度に疑問がある。
はっきりいえば、設計能力が低い!
原発内で事故対策に従事するマンパワーの能力の低さが現れている。

政府は、事故対策を東電に丸投げしているが、あまりにも無責任だ。
世界を震撼とさせている原発事故に、民間企業一社で対応させるというのはあまりにも無謀だ。
日本全国から有能な技術者を集めて、すべての情報を公開して最善の策を講ずるべきだ。

目立たないニュースの中から福島原発での稚拙な事故対策が浮かび上がってきた。
福島原発では最先端の技術が事故対策に充てられているとの思い込みが社会全般にあるのではないか。
現場では精一杯を尽くしているかもしれないが、最先端の技術レベルからすると実情はかなりお粗末なのかもしれない。