・20億円も無駄な下水処理場
駒ヶ根市の下水道普及率は、昨年度末で86.7%となっている。
下水道の普及によって、トイレの水洗化が進むことで生活レベルを向上させるとされています。
確かに、汲み取り式便所から水洗トイレに変われば生活レベルが向上したような気にならないこともない。
しかし、そのために多額の設備投資と長期間に渡る施設の運営費負担が市の財政に重くのしかかってきます。
下水道(農業集落排水事業)は、本当に必要な施設なのか疑問です。
実際には、不要な地域にも作られてしまっていることを地域住民も知らないでいます。
27日には、駒ヶ根市東伊那地域を対象にした農業集落排水事業(以下、農集排)*1が竣工しました。
実は、この施設は必要だから作ったものではないとの疑惑がもたれています。
竣工式の様子を伝えた信濃毎日新聞の記事 → *2
下水処理施設の本来の目的は、水洗便所を普及させるためではありません。
下水や家庭の雑排水が流入して汚濁が進む、河川の浄化の手段として考えられてきました。
しかし、多額の建設工事費が絡むために、浄化に必要だから作るのではない、
「作ることが目的」の施設が少なくありません。
駒ヶ根市竜東北部地区の農集排もその一つです。
不要だという根拠は、しゅん工式で演説した市議会議員の言葉が、事実に基づいていないことで証明できます。
「重要課題だった河川の浄化につながる」
この地域を流れる河川は「塩田川」といいます。
下水処理施設が必要ならば、塩田川の汚染の度合いは放置できないほど深刻だったはずです。
しかし、実際の塩田川は環境基準の目安を大幅に下回るきれいな河川でした。
河川の汚染状況を示す尺度の一つ、BODの値で検証してみます。
採水年 | BOD濃度 | 採水年 | BOD濃度 | |
---|---|---|---|---|
H1 | 1.3 | H9 | 1.1 | |
H2 | 0.7 | H10 | 1.0 | |
H3 | 1.0 | H11 | 1.2 | |
H4 | 1.1 | H12 | 1.1 | |
H5 | 1.1 | H13 | 1.0 | |
H6 | 1.4 | H14 | 1.2 | |
H7 | 1.0 | H15 | 1.1 | |
H8 | 1.0 | H16 | 1.2 |
着工された平成9(1997)年以前では、過去に一度も目安とされるBOD2.0を超えたことがありません。
建設工事中の8年間でも、1.0〜1.2と非常に安定した水質を維持しています。
これは、流域で発生した汚濁物質量と比較して、自然の浄化能力が上回っていることを示しています。
言い換えれば、人工的な浄化装置、すなわち下水処理施設が不要な流域だったのです。
河川の浄化が重要だったとの理由付けは、一切の根拠を持たないことが明確です。
にもかかわらず、下水処理施設としての農集排事業を推進した建設委員会の目的とは何だったのでしょうか。
汚染されていない河川に、必要のない下水処理施設を作らせた責任は重大です。
建設委員会では、施設を計画する際に各河川の汚濁実績を把握したはずです。
その際に、汚染状況が環境基準よりも低い地域では、下水処理が不要だということも分かっていたはずです。
しかし、つくらないという選択は彼らにはなかったのです。
駒ヶ根市の他の河川では、BODが20を超えるなどして、下水処理施設が必要な流域もありました。
この流域では、下水処理施設の建設によって浄化されて、塩田川並のきれいな水質になりました。
下水処理施設によって浄化された河川よりも、さらに水質の良い河川流域に下水施設が必要なわけがない。
もし、生活廃水によって農業水路の水質が低下するのを防止したいとの希望があったとしても、
各戸に合併浄化槽を設置すれば、7分の一程度の費用で浄化施設が設置できてしまいます。
下伊那郡の下条村では下水道事業で45億円を見積もった生活廃水事業が、
合併浄化槽を選択したことによって、6億3千万円に収まっているとの実績があります。
合併浄化槽にすることで節約できる金額は20億円以上になる計算です。
これだけの余剰を生むならば、対象の全戸には自己負担を強要することなく水洗化が実現できます。
どちらの選択が、本当の意味での地域住民のためになったのかは歴然です。
選択を誤らせた要因を世間一般では「利権」と呼ぶのでしょう。
駒ヶ根市民は、不必要な下水処理施設が作られた実態をどう考えるでしょうか。
20億円もの無駄な出費を招いた、関係者の責任はどのようにして追及されるのでしょうか。
*1:農集排と下水処理は中身は一緒ですが、所轄の官庁が異なるので呼び名が違っています
*2:駒ヶ根市竜東北部地区の農業集落排水事業の竣工式は27日、市東伊那支所で開き、地元住民でつくる建設委員会の役員ら約50人が出席した。同事業は、東伊那地区を中心に約四百戸が対象。1997年に着工し、04年5月に同市東伊那の浄化センターが完成、全長25.7㌔の配管など、約9年で完工した。総事業費は26億4千6百万円。自己負担となる各家庭への配管工事は、約6割の250戸で終えている。しゅん工式で式で、建設委員会の林政衛委員長は「長年の事業がようやく完了した。重要課題だった河川の浄化につながる。全戸で水洗が導入されることを期待したい」と述べた。この日は式に先立ち、事業完成を記念して浄化センターに建立した石碑の序幕も行った。