・駒ヶ根の死亡事故は人為の重過失

駒ヶ根市下平の県立駒ケ根病院本館棟建設工事現場で起きた死亡事故は、人為的なミスによるものの疑いが濃厚だ。

これまでに発表された情報からも、安全基準を無視した危険な作業の実態がうかがわれる。

ポイントの一つは風速だ。


現場に最も近い竜東に設置された風速計によると、事故発生時の最大瞬間風速は17.5メートルだった。

元請け企業の説明によると12メートル以下で作業する決まりになっていたという。

ところが、現場では風速を測定していなかった。

吹き流しを目視して風速を判断するという、ずさんな安全管理だった。


次のポイントはアームの長さと荷重の関係。

こちらも安全基準を度外視した危険な作業だったようだ。

事故当時、アームの長さは57m、ワイヤーの長さは15m、吊り上げた荷物の荷重は800kgと報道されている。

クレーンの角度は地表に対して12度と、かなり鋭角だったようだ。


事故を起こしたクレーンと同格の加藤製作所の65トン型クレーンの性能表によると、アームを57mまで伸ばした状態では危険角度は54度とあるので、12度は問題外ということになる。

さらに、アームが危険角度ギリギリの55度の時でも荷重は550kgにとどまる。

事故現場ではクレーンの安全基準を無視した極めて危険な状態で操作が行われていたもようだ。


クレーンではモーメントが転倒限界に近づくと警報を発したり、作業が自動的に停止する過負荷防止装置が取り付けられている。

これが正常に作動しなかったか、警報を無視して危険な作業を続行したのか。

単純な過失が原因の事故ではなく、企業体質が反映したずさんな安全管理が複合的に作用して起こるべくして起こった人為的な事故だろう。


事故現場には、入院患者がいる病棟も並んでいた。

アームの落ち場所が少しずれていたら患者の命が失われていたかもしれない。

通常の工事現場よりも高度な安全管理が求められている現場だった。


安全性も含めた高い技術レベルが求められる工事を発注した県の責任も問われるのではないか。

落札したところがどのような会社であるか県の担当者が知らなかったとは思えない。

今回の事故は、尊い人命が失われただけではなく、大惨事を奇跡的に逃れた重大事だ。

この機会に関与した手抜き工事、安全基準を満たさない危険工事、下請けいじめの工事実態などがぞろぞろと出てくることを期待したい。

多くの建設工事関係者の期待でもあると思う。